同じ状況のなかで

お教室が終わり、タクシーで移動するさいのことです。
続けて二台、同じタクシー会社の空車が近くまできたので、手を挙げました。
一台目のタクシーは前を通り過ぎ、二代目のタクシーはゆっくりと停車してくださいました。

20201012乗車した直後、「前のタクシーが停止せず、同じタクシー会社の者として本当に申し訳ないです」と丁寧に話しかけてくださったのです。
「私はボッとしているところがあるので、きちんと手をあげていなかったのかもしれません。お気遣いなさいませんように」とお伝えしても、降りるときまで、何度も何度もお詫びのことばを伝えてくださいました。
さらに「私たちは〇〇社の看板を背負っており、そのことでたくさんの恩恵を受けているのです。それを忘れてはならないと思っています」と、おことばの端々からご自身の仕事への向き合い方や誇りを感じました。

後日、偶然にも門下の方から、タクシーに関するお話を伺いました。
出張中に同じ場所で二日続けて、いずれもキャリーケースを持ちながらタクシーに乗車したときのことです。
最初の乗車時は、助手席辺りまで行って窓をノックし、運転手さんに車のトランクを開けてくださるようにお願いした。
2回目の乗車時は、車が停車して間もなくトランクが開き、何もお伝えすることなく運転手さんが積極的に荷物を積むことを手伝ってくださったので大変ありがたかった、とおっしゃっていました。

どのお仕事であっても、ひとりひとりが「個」として高い意識を持ち、こころを動かしながら行動する大切さを教えていただく機会に感謝いたします。
同じ状況において、自然に素敵な印象を与えられるようになりたいものです。

涌き水

少し前ですが、出張で金沢市へまいりました。
兼六園横の金澤神社の近くに金城霊澤(きんじょうれいたく)という泉があるのですが、藤五郎という人が山芋堀をした後にこの涌き水で山芋を洗った後、沢にたくさんの砂金が残っていたという伝説から「金洗いの沢」と呼ばれ、「金沢」の地名の由来になったというお話を地元の方から伺いました。
金澤神社の手水舎のお水は24時間境内の井戸からくみ上げられていて、金城霊澤と同じ地下水源で、飲料水としても多くの方々に親しまれているそうです。

20201008東京に戻り、「近所に井戸はあるのかしら」と思っていた矢先のことです。
朝から爽やかな天候だったので、事務所近くをお散歩している途中、ふと前方を見ると「和めの井戸」の文字が目に飛び込んできたのです。
石碑には、令和の御大典を奉祝して境内の地下水を使用して作られたと記されています。
何度も通っている道にもかかわらず、今まで気づかなかったことを反省しつつ、井戸の発見で嬉しい一日となりました。

全国各地に涌き水はありますが、門下の方に伺ったところ、小笠原家ゆかりの地である松本市は涌き水が大変豊富でおいしいお水がいただけるとのこと。
素敵な涌き水を探しに、松本を訪れてみたいと思います。

送信先

古い考え方かもしれませんが、対面できない場合には圧倒的に電話で話をすることが好きです。
表情は見えなくても、声の印象から相手の気持ちを察することもできるからです。
とはいうものの、相手がどのような状況なのかがわからないとき、たとえば日中はお仕事の邪魔をしてしまうのではないか、土日・祝日はせっかくリラックスして過ごしていらっしゃるところに失礼ではないか、などという思いからLINEなどを用いることもあります。
その他の理由からも、SNSは大変便利な連絡手段といえましょう。

さて、お知り合いの方から、送信先を誤ってお送りになったのではないかと思うメッセージをLINEで受け取ったとします。
そのようなとき、皆様はどのようなお返事を先方へお送りになりますか。

「こんにちは。お元気ですか。ご連絡ありがとうございます。もしかすると、別の方にお送りになる予定のメッセージを頂戴したのではないかと…」
というメッセージを知人からいただいたことがあります。
まさしく私自身も、友人へのメッセージを同じ苗字の別の方に送信してしまったのです。

20200914何と失礼なことをしてしまったかと、慌ててお詫びをお伝えしたところ、
「いえいえ、私も先日、友人に送るはずのメッセージを別の人に送ってしまいました。LINEはニックネームで表示されることもあるのでわかりにくいですよね」
とのお返事に感激いたしました。
さらには、
「久しぶりにご連絡を取ることができて嬉しいです」
という優しいおことばをいただき、このことがきっかけでお食事をご一緒することになりました。
その後、何人かの友人から、送信先が違うのではないかと推察できるメッセージを受け取るたび、このときの経験を活用させていただいています。

相手に事実を伝えなければならない場合、その内容を自分にもあり得ることとして表現することで、柔らかい印象を生むことができます。
それにより、今まで以上にご縁が深まることもあるのです。
手軽に用いることのできる連絡手段ほど、こころを込めた素敵なメッセージを差しあげたいものです。

月と兎

幼い頃は母と家のベランダから月を眺めては「今日もうさぎさんがお餅つきをしている」と話していました。
「なぜうさぎさんはお月さまにいくことができたのかしら」「なぜお餅つきをしているのかしら」とも思ったものです。

月は白兎、玉兎、月の兎、月宮殿、月の桂、金兎、桂月、などと様々な異名を持ちます。
屈原の楚辞の天問には、次のように記されています。moon_rabbit_illust_1160

夜光何徳  《夜光何の德ぞ》
死則又育  《死すれば則ち又育(いく)す》
厥利維何  《厥(そ)の利維(こ)れ何ぞ》
而顧菟在腹 《而して顧菟(こと)腹に在り》

月には何の徳があるのだろうか。
欠けると思えばまた満ちる。
どのような利があって腹に兎を住まわせているのだろうか。

月に兎が住んでいるという話は、世界中にあるといいます。
そのもとは、インド、または中国とも聞きますが、この天問にある「顧菟」とは、兎ではなく蟾蜍という説もあります。
その説の詳細は割愛いたしますが、いずれにせよ、月の兎に想いを馳せる情緒は素敵なことではないでしょうか。

今日は、旧暦8月15日の十五夜。
月の中に兎、蟾蜍、あるいは別の生き物を見つけますか。
それとも、まんまるお月様のみを眺めますか。
神秘的な月を、皆様のおこころで愛でる一夜になさってはいかがでしょう。

外国人とわかりあうために

英語で伝える日本のマナー_カバー画像「外国人とわかりあうために 英語で伝える日本のマナー」が上梓されました。
長きに渡ってお世話になっている淡交社の方より、「日本語と英語の本を書いてみませんか」とお話をいただいたことがきっかけです。

昨今、日本に生まれ育っても、日本の慣習やその意味を理解することが薄らいでいるのですから、床の間に前に座っている外国人に対して頭ごなしに「その席に座ることは非常識」とはいえないのです。
あるいは、お箸は神様の依り代(神霊のよりつくもの)とわかっていると、お箸遣いにもこころを配りたいという思いになりやすいのではないでしょうか。
チップとこころづけの違いがわかることで、日本人のこころを理解するきっかけになるかもしれません。

他者を大切に思うこころは、世界中の人々が持っているはずです。
そのこころを、私たち日本人は、作法という日本独自の細やかな「かたち」を通じて、人間関係を円滑にしようと過ごしてまいりました。
僭越ながら拙書を通じて、「こころ」を理解しながら、「かたち」を取り入れることによって、外国人の方との温かなコミュニケーションを深めるきっかけとなりましたら光栄なかぎりです。
また外国人のみならず日本人の方にも、ご覧いただくことが叶いましたら誠に幸甚に存じます。

お世話になりました皆様にこころより感謝いたします。
本日は拙書のご紹介となり、大変失礼いたしました。

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