祖母が教えてくれたチップの心得

先代の姉である祖母は毎月、近江八幡市から上京していました。
父や母に連れられて東京駅の新幹線ホームで祖母を出迎え、夕食はかならず宿泊先のホテルにおいてフランス料理をいただくことが決まりでした。

毎回、驚くほどに荷物が多く、ホームには赤帽さんが何人か待機し、車の場所まで荷物を運んでくださるたび、祖母がチップを差し上げている光景を目にしていました。
その祖母の姿を格好よく思ったものです。

宿泊先は高輪、晩年は赤坂のホテルに滞在していましたが、ホテルではお世話になるすべての方にチップを差し上げていたので、荷物を運んでくださるスタッフの方にもチップは必須でした。
日頃は祖母か周囲のおとながチップをお渡ししていたのですが、その役目を私が引き受けなければならない状況があったのです。
そのとき、祖母から「あなたが渡すこと、本当は失礼なのです。だから、おばあちゃまの代わりであることを忘れず、こころを込めて渡さなければなりません」といわれたことが深く記憶に刻まれています。

またレストランでの食事は、正直なところ、喜びよりも私にとっては修行のように感じられる時間でした。
荷物の扱い、ご挨拶、グラスやカトラリーの扱いなど、全てが祖母からの注意の対象となったからです。
しかし、その教えが今の私にとっては、かけがえのない財産です。

カフェその後、祖母が宿泊していた赤坂のホテルは取り壊され、高層階のホテルに変わりましたが一部の洋館だけは残され、レストランとカフェにリニューアルされました。
先週、そちらのカフェに伺うことがあったのですが、クラシックな雰囲気が残されたままの店内に一歩足を踏み入れた瞬間、祖母との懐かしい思い出が蘇りました。

祖母が教えてくれた心得をこれからも大切にしたいと思います。

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